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京都地方裁判所 昭和52年(わ)1493号 判決 1978年5月15日

一、本店所在地

京都市南区上鳥羽南鉾立町一三番地

法人の名称

京阪プレス株式会社

代表者

右代表者代表取締役 金村正敏

二、本籍

京都市南区東九条石田町一一番地

住居

京都市南区東九条石田町一一番地

会社役員

金村正敏

昭和二年一二月一日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官佐藤惣一郎公判出席のうえ審理を遂げて次のとおり判決する。

主文

被告会社京阪プレス株式会社を罰金二、〇〇〇万円に被告人金村正敏を懲役一年に各処する。

但し、被告人金村正敏に対しこの裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は予てからの個人営業を発展させて昭和四二年二月鉄くず及び非鉄金属売買業並びに加工業を目的とする被告会社を設立しその代表取締役として業務全般を総括掌理しているものであるが、設備の近代化と充実強化に必要な資金調達のため簿外預金を蓄積して金融機関の信用を獲得しようという意図から被告会社の業務に関し、被告会社の経理担当者関敏幸に指示して京都市清掃局ゴミ焼却場から仕入れる焼缶及び鉄くずを一般の市場単価で仕入れた如く架空仕入れを計上させたり銅真鋳などの非鉄金属の売上を除外させたり或は修理費などの支払を仮装ないし水増計上させる方法によつて簿外資産をつくらせ、被告人自らはこの簿外資産を従業員や友人に貸付けてその利息収入を除外するという方法により所得を秘匿して法人税を免れようと企て、

第一  昭和四九年二月一日から同五〇年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額は一億九、九六六万五、九九八円であつたにも拘らず、右方法により所得を秘匿した公表経理に基づき、同年三月二八日京都市下京区間之町五条下る大津町八番地所在の下京税務署において同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が八四〇万一、〇四九円でこれに対する法人税額が二四七万〇、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、以て不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額七、八九七万五、七〇〇円と右申告税額との差額七、六五〇万五、六〇〇円を免れ、

第二  昭和五〇年二月一日から同五一年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額は九、二五二万一、〇四一円であつたにも拘らず、右方法により所得を秘匿した公表経理に基き、同年三月三〇日前記下京税務署において同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が四六三万六、三三五円でこれに対する法人税額が一一三万二、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、以て不正の行為により被告会社の右事業年度の正規の法人税額三、六〇〇万三、〇〇〇円と右申告税額との差額三、四八七万〇、三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書一四通

一、被告人の検察官に対する供述調書二通

一、関敏幸の大蔵事務官に対する質問てん末書三通

一、同人の検察官に対する供述調書

一、押収にかかる手帳二冊(当庁昭和五三年押第一四八号の一)

一、押収にかかる手帳二冊(当庁昭和五二年押第一四八号の二)

一、大蔵事務官作成にかかる査察官調査書(検一七号)と被告人の確認書(検一八号)

一、大蔵事務官作成にかかる査察官調書(検一九号)と報告人の確認喜(検二〇号)

一、大蔵事務官作成にかかる査察官調査書(検二一号)

一、栗浜篤子の確認書及び大蔵事務官に対する質問てん末書

一、中平文夫の大蔵事務官に対する質問てん末書

一、大蔵事務官作成にかかる査察官調査書七通(検二五号乃至三一号)

一、大蔵事務官作成にかかる現金預金有価証券等現在高確認書三通(検三二号乃至三四号)と被告人の確認書(検三五号)

一、平山秀男、大島伸一、北村利雄、川口拓也、宮田民章、高瀬義一、斉藤賢二、山田三雄、平家崇好、高橋英昭、平嶋卓司、小椋健孝、堤宏二の各確認書(検三六乃至五三号)

一、堤宏二、秋山博裕、植村稔の各供述書(検五四号乃至五六号)

一、大塚虎一郎、劉栄秀の大蔵事務官に対する各質問てん末書(検五七号、五八号)

一、大蔵事務官作成の証明書三通(検六〇号乃至六二号)及び査察官調書二通(検六三号、六四号)

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、先ず本件公訴が法人税法一五九条違反を訴因罰条とするものである以上、個々の具体的な架空仕入の計上、架空経費の計上、売上除外の設定にかかる各金額を明確にし尚また公訴事実中にこれらの手段方法の外に「など」という文辞で包括的に表現されているところの手段方法の各個が果して右法条にいう「偽りその他不正の行為」に該当するかどうかを吟味しそれに該当するとの証拠のない金額部分については右法条違反の罪は成立するに由ないのであると主張する。要するに所論は個々の不正行為をそれぞれ独立したものとして評価しそれらと各直接的な因果関係の認められる逋脱部分なるものを観念しその集計を以て逋脱所得とする考え方に立脚し個々の収益損費の勘定科目毎の認識までをも故意の内容として必要というのである。しかしながら、逋脱犯は特定の事業年度における諸活動の総合的成果としての不可分一体の経済的利益たる所得を対象とするもので、本件の如き過少申告による法人税逋脱犯の故意としては真実の所得額に比し過少な所得額に基づいて過少の税額を算出し左様な記載の申告書を所轄税務署に提出することの認識あるを以て足り、それ以上に右申告書作成に至る伝票操作ないし帳簿粉飾などの準備工作についての個別的認識の如きは更にこれを必要とすることなく、凡そほ脱額の全部につき過少申告逋脱犯の成立を免れないと解すべきであるから、弁護人の右所論は独自の見解で採るをえない。

次に弁護人は右主張と同旨の見解に立脚し、青色申告の承認を受けていた被告会社が虚偽過少申告をしたことにより青色申告の承認が取り消され因つて青色申告者の特典としての価格変動準備金の損金計上などが否認されたが、左様な所得増加額はほ脱の犯意に基づく不正行為によつたものでないことはもとより明らかであり、且又刑罰不遡及の原則及び罪刑法定主義に鑑みても、右否認にかかる部分に関する限り逋脱犯の成立するに由ないこと多言を要しないというのである。しかしながら、青色申告承認の制度は納税者が自ら所得金額及び税額を計算し自主的に申告して納税する申告納税制度のもとにおいて適正課税を実現するために不可欠な帳簿の正確な記帳を推進する目的で設けられたもので、適式な帳簿書類を備え付けこれに取引を忠実に記載し、且これを保存する納税者に対しては推計課税を認めないなどの納税手続上の特典及び各種準備金、繰越欠損金の損金算入などの所得計算上の特典を与えるものであるところ、この各種特典は本来正当に納付すべき筈の税額計算に対する特例にほがならず、その特例条件である正確な記帳と申告をしなければ必然的に青色申告書提出の資格が無くなり右各種特典享受の無い原則どおりの所得計算に戻らざるをえないという仕組にほかならないのである。されば、所得秘匿行為者としては右特例条件違反事実の確認手続にすぎない税務署長の取消処分を俟つまでもなく、自己の所得秘匿工作の露見により原則どおりの所得計算となることは優に予見可能の範囲内のことに属した筈であつて、税務署長の青色申告取消処分によつて初めて遡及的に取消益が加算されるに至ると観念することこそが誤りといわざるを得ず、所論は到底採るをえない。

(法令の適用)

判示各所為は、被告会社についてはいずれも法人税法一六四条一項、一五九条に該当するところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四八条二項により各罪の所定罰金額を合算した金額の範囲内で被告会社を罰金二、〇〇〇万円に処する。被告人金村正敏の判示各所為はいずれも法人税法一五九条に該当するのでいずれも所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予することとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 深谷真也)

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